「ゴッチャ!」といえば、全国の3、4歳から小学生までのほとんどの子どもたちは覚えているだろう。掛け声に合わせてポーズをとり、「3時!」「ちょうちょ〜」「えっさっさっ!」と歌いながら踊れる子どもも多いに違いない。
NHKの幼児向け番組「おかあさんといっしょ」の「ゴッチャ!」のコーナーで人気を博していたのが“まゆお姉さん”。明るく親しみやすい笑顔で時計の針や花、蝶、時には工事現場の様子を身体で表現していた4代目・ダンスのお姉さんが番組を卒業して1年余り。子ども向けのイベントをはじめ全国各地で歌って踊って笑う姿は、今も変わらず子どもやお母さんたちの憧れだ。
ダンスに開眼
「私はちょっと変わった生徒でした。みんなにどう思われていたのかな。高校のときからレッスンに明け暮れていましたから」
東京で過ごした小学生までは、「美人じゃないから食いっぱぐれないように特技を」という母の勧めで合唱やクラシックバレエ、英会話、習字、水泳という習い事三昧の生活を送った。ダンスに興味を抱いたのは中学3年の終わり頃。体育の最後に受けた授業はいつもと違っていた。曲に合わせた動きを自分たちで考え、自由に振り付けて踊る。子どもの頃に習っていたクラシックバレエとも違っていた。その授業のなかで突如、目覚めてしまったのだ。
「それがもう、本当に楽しくて。この楽しさ、この感覚をどう表現すればいいんだろうって。音楽に合わせて体を動かすのは楽しい、ものすごく楽しい。そのことに気が付いてしまったわけです。この楽しさはほかのものには代えようがない。ダンスでしか決して味わえない感覚に取り憑かれてしまいました」
高校入学後は生活が一変する。アルバイトでレッスン代を捻出しながら、秋田市のダンススクール「スタジオS」に通った。高校2年の課外授業では、友人たちは好きな場所に仲間と出かける計画を立てていたが、迷わずひとりで上京したいと申し出た。
「東京にはすごいダンサーさんがたくさんいると聞いていたので、東京のダンススタジオに行ってレッスンを見学してみたかった。ほかには誰もそんな人はいなくって。私、異色だったかもしれません」

ダンスのお姉さんに
東京でレベルの高さを目の当たりにしてから、人生は力強く動き出していく。大学では連日、筑波での授業の後に東京のダンススタジオへ。その後はダンスを中心とした生活をするため東京に移り、授業のときだけ高速バスで筑波へと出かける日々。
「私、すべてにおいてダンスが優先だったので、大学では一度も飲み会に出たことがなかったほどです。素晴らしい先生や先輩方がたくさんいて、とにかく吸収したい、もっとうまくなりたいと頑張っていたので苦だなんて思ったことはありません。先生や先輩方の存在が私を引っ張ってくれました。学生時代からオーディションを受けて舞台に立たせていただいたり、ダンスを教える仕事をさせてもらったり。もっとプロフェッショナルになりたい、もっとこういうことがやりたいって、ずっと上を見続けてこられた。ダンスを追求しながら働くことに、より深い楽しさがありました」
そして05年、偶然知ったNHK番組「おかあさんといっしょ」の4代目・ダンスのお姉さんのオーディションに応募、難関を乗り越え合格する。明るく楽しく、笑顔輝く“まゆお姉さん”の誕生だ。
「スタジオ収録のほか地方局での収録、全国各地でのファミリーコンサートなど楽しく充実した生活でした。もともと子どもが好きでしたし、大好きなダンスをやっているわけなので大変なことは何もなかった。ただ、それまで組織のなかで働いたことがなかったので、当初は働くことの意識が低かったと思います。私にはダンサーとしての技術だけでなく、“お姉さん”としての役割がありました。7年間、徐々に働く意味を理解していって、ひとりの人間として大人にしていただいたと思っています」

お母さんの味方
「おかあさんといっしょ」の卒業から1年半。イベントや講座などで全国各地を駆け巡る生活が続く。その合間にブログやツイッターを更新して全国のファンとのつながりを大切にする。
身体のこと、エクササイズのこと、おいしいご飯のこと。免疫を高め健康を維持するためのこと、体調管理のために摂取している酵素のこと。それはいつも女性の身体、お母さんの心を励ます内容だ。
「今はひとつの番組のコマとしてではなく、自分自身でどういうことを発信していけるかが鍵。私を気に掛けてくれている人たちに、どうしたら喜んでもらえるか、どうしたら楽しんでもらえるのかをいつも考えています。私、健康そうに見えますが、実は学生時代、身体は悲鳴を上げていました。ダンスができないほど首が痛くて回らない。その頃からトレーニングや健康維持のために身体のことを自分なりに勉強してきました。骨盤体操や酵素のことなど自分の経験を生かしていきたい。それに、親子で身体を動かすイベントをしたり、子どもたちにダンスを教えるときなどにとても気に掛かるのが子どもたちの姿勢の悪さ。それは集中力にも影響します。姿勢の悪い子のお母さんを見ると、やはり姿勢が悪いことが多いんです。育児で忙しいお母さんの身体を少しでもラクにして、楽しませてあげたい。それがいまの私の役割なのかな」
人生に彩りを
「テンション パッション 100%で ぽっぷ すてっぷ ダンシング」
昨年リリースしたDVDでは、自ら作詞した曲を歌って踊った。はつらつとした表情と元気な動きは子どもたちだけでなく、お母さんのためのものでもある。
「お母さんたちって、本当に子どものために生きているんですよね。でも身体の不調があれば、ポジティブな決断もできなくなる。お母さん自身が、身体も心も健康的な状態であることが子どものためになるんです。例えば、育児でストレスを抱えているお母さんたちと一緒に骨盤体操をする。そのなかにちょっとだけダンスを取り入れて、『私なんかには踊れない』と思っていたお母さんにも、ちょっぴり『ダンスって楽しいのかも』と思ってもらう。そうすればお母さんも笑顔になって、楽しいと思えたことで生活や人生にほんの少し彩りが生まれる。『好き』というのは、人生の大きな力になると思うんです」
これからも、子どもたちと、お母さんと一緒に。曇りのない笑顔で歌って踊って、旅をする。
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